スロウハイツの神様 上下(辻村深月)読了 [感想・小説]
愛すべき馬鹿がいる。
青春群像劇として大変秀逸でよい作品だというのに、もう最後の最後でこの言葉しかでてこない。
やってることが大変アレなんだけど、思わず応援してしまう。
トキワ荘のようにクリエイタを目指す若者がともに住む「スロウハイツ」。
ポスト手塚の位置にいるのはチヨダ・コーキ。
十代の少年少女から絶大な支持を受ける小説家。
かつて彼のファンが暴走し、彼の小説を模して人を殺した。
あれから10年。
辻村深月らしい優しさと冷たさを併せ持った物語。
視点は狩野が多いものの、中核は環であり、チヨダ・コーキ。
それ以外の面々にもドラマがあって、ひとりひとりが主人公的な、「冷たい校舎~」のエッセンスがあるものの、ある程度いい大人たちなので青臭さはあまりない。
でも環とチヨダ・コーキ以外(あと黒木ものぞく)はなかなか自分の才能に芽が出ずくすぶっているあたりにシンパシーを感じる。
そういう人間模様もいいのだけど、最後、すべてがひとつの事実に収束していく様は気持ちよかった。
それが冒頭のあれな出来事だとしても(笑
作者が「二十代の辻村美月はこれを書きたかった」旨の発言をしていたけれども、その言葉に恥じない作品でした。
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