七つの死者の囁き(新潮文庫)読了 [感想・小説]
恒川光太郎の名前があったというのだけが購入の決め手でした。
しかし読了した今、私に言えることはただ、
今すぐこの表紙を変えるんだ今すぐ。
あからさまにホラー的な表紙で、帯の文句も「静かに怖い七つの物語)となっていますが、ホラーだと思って読むとかなり肩すかしを食らうと思いますよ。
本書は有栖川有栖、道尾秀介、石田衣良、鈴木光司、吉来駿作、小路幸也、恒川光太郎(収録順)の7名が「小説新潮」で書いた短編を1冊にまとめた文庫オリジナルの1冊。
もともとそのテーマで書き下ろしたわけではないからアンソロジーとは違うのか。
とにかくそうそうたる面子です。
裏表紙のあらすじにも「恐怖と憂愁を纏った」とありますが、どちらかといえば憂愁多め。
確かにそれぞれ死者(もしくはそれに準ずる何か)の囁きが作中に出てくるも、それは私の知るホラーとは確実に違う。
しんみり切なくなるいい話が多いので、どうかこの表紙に惑わされずに読んでもらいたい、珠玉の短編集でした。
個別にいくつか。
有栖川有栖「幻の娘」
読んでいて有栖川先生だなあ、と安心できる空気が流れてました。
最後の方はだいぶ飛躍したかな、と思いましたが、それはそれで。
そういや火村シリーズの方でも人知を越えたものが出てくるものがありましたね。
道尾秀介「流れ星のつくり方」
個人的にあまりハマらない作風なのですが、とにかく抜群に巧い。
ハマらないけど面白かった。
ラストがじわじわと効いてくる。
石田衣良「話し石」
個人的にあまりハ(略
しんみりとするとてもよい物語でした。
ネタバレに抵触するため詳しく突っ込めませんが、この文庫に収めるのは間違っているような、合っているような(※ヒント:表紙
小路幸也「最後から二番目の恋」
とてもよい恋物語でした。
……なんでこの文庫に収録されているんだろう。
恒川光太郎「夕闇地蔵」
ノスタルジックな幻想物語という恒川光太郎の本領発揮。
この文庫の中ではひとつだけ舞台が現代ではなく、明らかに浮いていますが、収録順が最後なので有りかな。
独特の世界と静かな狂気が無性に美しい。
鈴木光司はさすがでした。
吉来駿作は初めて聞く名前。
デビュー作の「キタイ」の書評をいくつか漁ってみたら、面白そうだけどちょっと今は読むのがしんどいタイプの話しのようで躊躇。
文庫に落ちたら読んでみたいかも。
それぞれ味があって甲乙つけがたい、大変魅力的な物語たちでした。
こういうアンソロジー的なものは、だいたいひとつふたつ趣味に合わないものが混じってるんですが、今回に限っていえばすべて当たりでした。
返す返すも表紙が。
もうちょっと何か、タイトルにしても、あったんじゃないかと思わざるをえない。
面白いんだけどなあ。
タイトルと表紙で勧めにくいことこの上ない。
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