改造版 少年アリス(長野まゆみ)読了 [感想・小説]
とりあえず長野まゆみデビュー作であるところの「少年アリス」のことは忘れるんだ。
話はそれからだ。
セルフカバーというか、作者自らあの名作を作り直したのがこの「改造版」です。
これはもう本当に「改造」であり、加筆修正とかいうレベルではないように感じました。
違いは数あれども、これはもう対比ではなく別個のものとして扱うべきだ。
そうは思っても、学生時代を長野まゆみで過ごしたといっても過言ではない初期長野まゆみフリークの私としては切り離して考えることなどできるはずもなく。
あのデビュー作を読まずにこの改造版を読んでいたら、ただ単純に面白い小説だと思っただろう。
ただし、あの当時のような熱狂的なファンにはならなかっただろうなあ。
アリだとは思う。
でも旧ファンとしては何かが足りない。
旧かな遣いの文体がなくなった、とかそういう問題以前の何かが。
あと、正直「少年アリス辞典」は蛇足だったかな、と。
聞き慣れない単語も長野まゆみの不思議ワールドのひとつだと思います。
それで興味をもったら自分で調べたらいい。
確かに便利だけども、なんというか、せめてこういう普通の辞典ではなくて。
まして「架空の生物」なんて注釈はしてほしくなかった。
「今」、長野まゆみを読み始めてみたいと思っているひとには最適な一冊だと思います。
そしてずっと遡って読んでいって、最後に「少年アリス」に到達するのはひとつの理想かもしれない。
5656!(成田良悟)読了 [感想・小説]
5656!―Knights’Strange Night (電撃文庫 な 9-28)
- 作者: 成田 良悟
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2008/11/10
- メディア: 文庫
待ちに待った越佐大橋シリーズ外伝!
本編では見られなかった戌と狗のシーンはニヤニヤもののラブなんかが盛り込まれた大変美味しい1冊です。
個人的に成田作品で一番ラブ要素が多いのは越佐大橋シリーズなんじゃないかと思うんですがね、ケリーと葛原とかイーリーと狗木とかナズナと八雲とか他いろいろ。
ケリーと葛原は最初と最後だけ、イーリーに至っては傍観を決め込んでいるので今回ほぼ狗木と一緒のシーンはなし、と悲しいことになってますが、その分ナズナと八雲にニヤニヤが止まらない。
そして出番が短くともケリーと葛原のラブな感じが大変よろしい。
しかし今回もっともニヤニヤなのは麗凰。
なにこの萌キャラ。
こいつぁとんだダークホースがいたもんだ。
あとシャーロックとカルロス相変わらずいい眼鏡でした。
これでもっとイーリーが……いや言うまい。
イーリーと狗木は本編で関係に決着ついてるもんなあ。
でもぶち抜きでピンナップだったのになあ。
ピンナップは両面ともエロかったなあ。
なにやらこの外伝、続刊があるらしいので楽しみです。
竹さん! 竹さん!
その前に次はバッカーノ1931番外編。
……1931ってのはフライング・プッシーフット号か。
スロウハイツの神様 上下(辻村深月)読了 [感想・小説]
愛すべき馬鹿がいる。
青春群像劇として大変秀逸でよい作品だというのに、もう最後の最後でこの言葉しかでてこない。
やってることが大変アレなんだけど、思わず応援してしまう。
トキワ荘のようにクリエイタを目指す若者がともに住む「スロウハイツ」。
ポスト手塚の位置にいるのはチヨダ・コーキ。
十代の少年少女から絶大な支持を受ける小説家。
かつて彼のファンが暴走し、彼の小説を模して人を殺した。
あれから10年。
辻村深月らしい優しさと冷たさを併せ持った物語。
視点は狩野が多いものの、中核は環であり、チヨダ・コーキ。
それ以外の面々にもドラマがあって、ひとりひとりが主人公的な、「冷たい校舎~」のエッセンスがあるものの、ある程度いい大人たちなので青臭さはあまりない。
でも環とチヨダ・コーキ以外(あと黒木ものぞく)はなかなか自分の才能に芽が出ずくすぶっているあたりにシンパシーを感じる。
そういう人間模様もいいのだけど、最後、すべてがひとつの事実に収束していく様は気持ちよかった。
それが冒頭のあれな出来事だとしても(笑
作者が「二十代の辻村美月はこれを書きたかった」旨の発言をしていたけれども、その言葉に恥じない作品でした。
ロードムービー(辻村深月)読了 [感想・小説]
辻村深月の「名刺代わり」であるところのデビュー作、「冷たい校舎の時は止まる」から生まれた短編集。
この文句がすでにややネタバレ気味ですが、まあそういうことです。
しかし冷たい校舎を知らなくても楽しめると思います。
特に表題作「ロードムービー」は単品として高いクオリティのものでした。
他の2作は知っているとより楽しめるタイプのお話。
ロードムービーは一番よかった。
ぐっときた。
小学生ふたりで家出というシチュエーションはもうそれだけでこみ上げるものが。
ワタルがとてもよいこでした。
そして雪の降る道。
君らは本当にお兄ちゃんに手間かけさすなあ……。
そしてお兄ちゃんは面倒見がいいなあ。
*
これは初版分だけかもしれませんが、中に辻村深月の全作品紹介と、著者の一言を添えた折り込み広告のようなものが入っていました。
丁寧な作りで、何より著者の言葉が添えられているのが嬉しい。
さて、このまま辻村深月はハードカバーへ、一般文芸へと移行するのでしょうか?
たぶんそうなんだろうなあ。
東京バンドワゴン(小路幸也)読了 [感想・小説]
これを、「ワゴン車に機材を積んで東京各地を回るバンドマンたちの物語」だと思っていたのは私だけではないと信じたい。
※「東京バンドワゴン」は古本屋さんの名前で、そこを舞台にしたミステリとホームコメディが同居した短編集です。
アットホーム、ではなくて、一家団欒と表現したい。
昭和のにおいがする、東京某所の古本屋「東京バンドワゴン」を舞台に繰り広げられる、ちょっとした不思議と家族の物語。
これがなんとも心地よい。
頑固者の大おじいちゃんを筆頭に、伝説のロッカー(御年60歳)、その子どもたち、また彼らの子どもたちという四世代が同居した堀田家は、いつも賑やかであたたかい。
そんな彼らの物語を語るのは、数年前に他界した大おばあちゃん。
この視点がとてもユニークで、ストーリーのあたたかみをよりふかいものにしている。
それから花陽ちゃんと研人くんの将来がとても楽しみでなりません。
私は子どもの頃から今に至るまでほとんどドラマを見ずに育っている上、この東京バンドワゴンが目指すところである「昭和のホームドラマ」というものを見たことがないのですが(そしてその世代よりもやや遅い年代であるため)、それでもこの懐かしい雰囲気を、懐かしく、うらやましく、愛すべきものだと思いました。
流星の絆(東野圭吾)読了 [感想・小説]
今ドラマでやってるアレ。
いや、初めて東野圭吾作品を読んだけど、面白いねこのひと(※直木賞作家
読み始めたらノンストップだった。
文章読みやすいし、展開はテンポよくて飽きさせないしなんておおよそ人気作家にかける褒め言葉じゃないな(笑
静奈が可愛かった。
なんかもうこの一言で済ませてもいい気がするのだけど。
静奈と行成の行方だけが気がかりでした。
なんかこのふたりでいるシーンはほほえましかった。
幸せになっていただきたい。
*
え、ドラマですか?
見ませんよ。
クドカンは好きですがね。
原作先に読み切っちゃったら、ドラマはちょっと、厳しい。
クドカンファンは大喜びなんじゃないかと思うんだけど。
そして実際その通りみたいなんだけど。
キノの旅12(時雨沢恵一)読了 [感想・小説]
キノの旅 12―the Beautiful World (12)
- 作者: 時雨沢 恵一
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2008/10/10
- メディア: 文庫
キノの旅最新刊は、カバーの裏にもお話があるから気をつけてね!
※ネタバレではありません。目次に記載されてます。
黒星紅白、絵変わったなあ。
ずいぶんとキノが大人びて見える。
いくつか読んだ覚えのある話が入っていたけど、どこで読んだんだっけ?
電撃文庫Magazineかな?
初出を載せてほしかった。
「徳を積む国」が好きだったなあ。
なんとも言えない寂寥感漂うラストが非常に好みでした。
あと「賭の話」のオチは読めてたんだけど、面白かった。
優柔不断揃いだな(笑
そして「雲の前で」。
これは新レギュラーってことでOK?
情報のほとんどないことなので、次の巻待ちかな。
でもきっとそうだろうな。
どんな旅になるのか、すでに楽しみにしているのだけど。
我に捧げよ至高の愛(野梨原花南)読了 [感想・小説]
前回、懐かしい顔がお目見えした魔王シリーズ最新作。
なんか苦労してるなあサファイア……。
サファイアの投入で動き出した事態。
舞台は前回から引き続きで、頭領の反応がかわいすぎです。
そして引き続きなのでスマートは美少女のままです。
美少女のまま白金をタラすスマート。
オトメ全開な白金がかわいらしい。
この魔王、こないだまで非道だったのになあ。
恋に戸惑う頭領と白金が見所。
表紙は白黒。
白金のビジュアルは初お目見えだっけ?
あ、あとお姫様が強いのは野梨原作品ですよねー。
アホンダラとか素敵過ぎる。
魔王シリーズは次回でラストとか。
どこにどう収まるのかしら。
<本の姫>は謳う4巻(多崎礼)読了 [感想・小説]
〈本の姫〉は謳う 4 (4) (C・NovelsFantasia た 3-5)
- 作者: 多崎 礼
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 新書
スペルの回収のため各地を渡り歩くアンガスと姫の物語がついに終焉。
表紙が若干ネタバレしてるのはもうこの際不問といたそう。
未曾有の危機に陥るバニストンへ乗り込んだアンガスたち。
絶望と希望が波状となって彼らの元を訪れる。
かつてない絶望の果て、アンガスが選択したのは……。
お見事な大団円でした。
……それも、聖域組も含めて。
聖域組こそどうにもならないものだと思っていたので、最後のシーンには感動した。
よかった、幸せになってね。
それから今回はお兄ちゃん頑張ったね。
いつもヘタレなお兄ちゃんよくやったね。
哀しい出来事もありました。
それこそアンガスと一緒になってなんのために……と思ったりしたけれど、それを乗り越えるアンガスの姿には心打たれた。
終章には響くものがありました。
物語とは1本道だけども、「読む」「読まない」という選択肢があるんですね。
読むのをやめたところがすなわちエンド。
ああ、なるほど。
まったくそのとおりですね。
余談ですが、だから私の中で銀河英雄伝説は7巻までで、提督はまだ生き続けているのです。
それは早く続きを読んだ方がいい、とよく突っ込まれますが……。
いやそういう話じゃないんだけど、そこが妙にしっくりきてしまったので。
コンスタンスに発行されて1年で全4巻というコンパクトさがかなりお勧めです。
〈本の姫〉は謳う 1 (1) (C・NovelsFantasia た 3-2)
- 作者: 多崎 礼
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/10
- メディア: 単行本
"文学少女"と神に臨む作家 上下 (野村美月)読了 [感想・小説]
“文学少女”と神に臨む作家 上 (ファミ通文庫 の 2-6-7)
- 作者: 野村 美月
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2008/04/28
- メディア: 文庫
“文学少女” と神に臨む作家 下 (ファミ通文庫 の 2-6-8)
- 作者: 野村 美月
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2008/08/30
- メディア: 文庫
長きに渡る文学少女シリーズも本編はこれにて完結。
素晴らしい大団円にコメントが見つからない。
ラストシーンが美しく、心から祝福できる結末でした。
本当に、お見事でした。
……まあななせ派にはかなしい物語となってしまったわけですが、でもあのエピローグのななせを見たらそれはそれで、と思いました。
前回、水妖のラストでちょっと期待しちゃったからさぁぁぁぁぁぁ……………。
流人が腹立たしくて仕方がなかったんですが、子犬みたいにぼろぼろになってるやつを見たらなんかもう、いいかな、と。
このあと出る短編集にはファミ通文庫のサイトに掲載されていたあれも今度こそ収録されるのかな。
そちらも楽しみ。